秋の燥邪から肺を守る——東洋医学×呼吸科学で磨く“うるおい呼吸”

季節の乾きに気づいたら

喉と肌が同時にカサつく朝に

朝起きたとき、喉が少しイガイガして、肌も乾いてつっぱる。秋の澄んだ空気は心地いいのに、体だけが追いつかない——そんな違和感、ありませんか。東洋医学では、秋の乾燥は「燥邪(そうじゃ)」として肺に影響しやすいとされます。呼吸の通り道をうるおすこと、それが“秋の快適さ”を保つ第一歩です。

AIがデータのノイズを整えるように、私たちの呼吸も「余分な力み」というノイズを減らすだけで性能が上がります。肩は下げる、舌は上あごに添える。小さな設定変更で、大きな体感が動きます。

肺と肌はチームメイト

東洋医学で肺は「皮毛(ひもう)」を主る臓。呼吸の質は、喉だけでなく肌・髪の“艶感”にも波及します。鼻は肺の開竅(かいきょう)。鼻が乾くと気も巡りにくく、ため息が増えて元気が下がる——そんな日こそ、うるおいの一息を。

東洋医学の視点:肺は“肌と鼻”の管制塔

秋=金、肺=収と潤

五行では秋は「金」。外へ広がる夏の勢いを収め、内に帰す季節です。『黄帝内経』は「燥は肺を傷る」とし、乾きが津液(体のうるおい)を奪い咳・声枯れ・便のコロコロなどを生むと説きます。対策は「収」と「潤」。呼吸は静かに、息は細く長く、体内の水を逃がさない設計に。

💡キーワード早見表:
・収=散らばる気を内に戻す(吐く息長め)
・潤=津液を守る(温かい飲み物、加湿、過度な発汗を避ける)
・辛は発散、酸は収斂。秋は過辛を控え、ほのかな甘・潤でバランス

燥邪は津液を奪う

乾燥の一撃はまず喉・鼻・皮膚へ。体内の“保湿係”である津液が減ると、痰はねばり、咳は空振りに。ここで無理に大きく吸おうとすると、さらに乾きを招いて悪循環。小さく、鼻から、静かに——が基本線です。

食と香りで“収と潤”を添える

梨、白きくらげ、百合根、黒ごま、れんこん、はちみつ少量。香りは金木犀や沈香系の落ち着くノートが「収」へスイッチ。辛味の強い刺激は控えめにして、喉が「しっとり」を思い出す手助けを。

ツボもひと押し。手首の親指側にある太淵(たいえん・肺経の原穴)、親指と人差し指の合谷(ごうこく)、前腕の外側・列缺(れっけつ)。呼吸に“余白”が戻ります。痛みが強い押し方はNG、ほどよくどうぞ。

現代科学の裏付け:鼻・自律神経・NOの三重奏

鼻呼吸=天然の加湿フィルター

鼻は吸気を温め、加湿し、塵をキャッチする高機能デバイス。低湿度は線毛運動(粘液のエスカレーター)を鈍らせ、感染リスクを押し上げます。だからこそ「小さく鼻で吸う」だけで、喉と気道の保水率は上がり、咳の刺激も落ち着きやすくなります。

鼻腔・副鼻腔で作られる一酸化窒素(NO)は、気道の広がりや微生物制御に関与。鼻で吸い、鼻でゆっくり吐くと、この恩恵にあずかりやすいのです。

ゆっくり呼吸と自律神経

1分あたり6回前後の呼吸(約0.1Hz)は心拍変動(HRV)を高め、副交感神経優位へ。肩の力が抜け、横隔膜がよく動くと、肺下部の換気が改善して“うるおいの行き渡り”がよくなります。焦りの息を、整う息へ。

ハミングとNO、一息で抗菌サポート

鼻でゆるく「ンー」とハミングすると、鼻腔内NOの移動が増え、気道内環境のサポートに。振動は副交感神経のスイッチにもなり、喉の力みを外すのに有効。難しい理屈は置いて、軽い鼻歌でOKです。

💡ミニTip:口呼吸が習慣の人は「舌先を上あごの歯茎“スポット”に置く」を合図に。自然と鼻ルートに切り替わります。いきなり長くは続けず、1セット1~2分から。

豆知識:今日から役立つミニTips

朝の“湿度チェック”

朝、喉がイガッとしたら寝室の湿度サイン。目安は40~60%。加湿器がなければ、濡れタオル+サーキュレーターでも意外と戦えます。

ティッシュテストで鼻づまり確認

片鼻を軽く押さえ、もう片方だけで10秒吸吐。左右差が大きいときは、通る側を下にして横向きで数分休むと改善することも。

温度より湿度を味方に

温度が同じでも、湿度10%の差は喉の体感を大きく変えます。外出時は、保温より「乾燥しにくい素材」を一枚足すのが賢い選択。

仕事中は「休息の呼吸」をメール送信の前後に1セット。タスクの切れ目は自律神経の切り替え時。うるおいを挟むクセが、夜の睡眠にも効いてきます。

今すぐできるセルフケア:“うるおい呼吸”レシピ

うるおい呼吸 基本形(1~3分)

  • 姿勢:坐骨に体重、みぞおちをやや広げ、肩はストン。舌先は上あごの「スポット」に。
  • 吸う:鼻から4秒、静かに。胸でなく肋骨の横へ空気を「注ぐ」イメージ。
  • 吐く:鼻から6秒、細く長く。ため息でなく、湯気を曇らせるように。
  • ハミング:最後の3呼吸は「ンー」と軽くハミング。喉は力まない。
  • 回数:1日2~3セット、会議前・寝る前・湯上がりが狙い目。

生活に溶け込む工夫

台所に小鍋で生姜ひとかけ+はちみつ少量の湯気を眺める、通勤は鼻歌で歩く、シャワー前に30秒の“肋骨ストレッチ”。続けるコツは「呼吸を儀式にしない」。日々の動線にひっそり置くのが勝ち筋です。

食卓は“白い潤い”を一品。れんこんすり流し、豆腐と白きくらげのスープ、洋なら洋梨のコンポート。辛すぎ・揚げすぎは乾きの加速装置。控えめに。

安全のためのメモ

・めまい・息苦しさが出たら即中止。
・喘息/COPD/心疾患、妊娠中は医療者に相談の上で。
・就寝時の口テープは鼻閉・睡眠時無呼吸の疑いがある人は使用しないでください。

チェックリスト:続く人の合図

今日はできた?ミニ確認

  • 鼻から吸って鼻から吐く比率が「いつもより」増えた
  • 吐く息を吸う息より少し長くできた(4-6秒ペース目安)
  • 起床時の喉の“紙やすり感”が弱まった
  • 午後のため息が「整う息」に置き換わった
  • 夜の入眠がスムーズになった

習慣化のコツ

アラームではなく「場」に紐づける。椅子に座ったら1セット、歯磨き後に1セット。AIの学習も繰り返しが命。呼吸も同じです。

まとめと次の一歩

古代の知恵×呼吸科学の一致点

東洋医学の「収と潤」と、現代の「鼻呼吸・HRV・NO」。異なる言葉で、同じ現象をなぞっているのが面白いところ。秋の燥邪は避けられないけれど、うるおい呼吸で“内側の湿度”は育てられます。

呼吸は最小のセルフケアで、最大の費用対効果。1分投資で、午後の集中と夜の眠りが回収できます。さて、次の1呼吸はいつにします?

体質を知ると続く

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参考文献

公的機関・ガイドライン

  • 厚生労働省. 季節性インフルエンザQ&A(環境整備と予防).
  • WHO. Roadmap to improve and ensure good indoor ventilation in the context of COVID-19.

古典・意訳

  • 『黄帝内経 素問』四気調神大論ほか(秋は収、燥は肺を傷る:意訳)

学術レビュー・論文

  • Lehrer PM, et al. Heart rate variability biofeedback: how and why does it work? Front Psychol. 2020.
  • Weitzberg E, Lundberg JO. Humming greatly increases nasal nitric oxide. Am J Respir Crit Care Med. 2002.
  • Moriyama M, Hugentobler WJ, Iwasaki A. Seasonality of respiratory viral infections. Annu Rev Virol. 2020.
  • Enaud R, et al. The gut-lung axis in health and respiratory diseases. Front Immunol. 2020.
  • Schleip R, et al. Fascia as a sensory organ. J Bodyw Mov Ther. 2012.

秋の燥邪から肺を守る——東洋医学×呼吸科学で磨く“うるおい呼吸”

小川亮太

監修者:小川 亮太(おがわ りょうた)

鍼灸師・医薬品登録販売者。東洋医学とAIを融合したウェルネスサービス『ととのうケアナビ』を監修。
「自分の体を自分で整える」ための東洋セルフケアを発信中。

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