秋の“浅い眠り”をほどく 東洋医学×クロノバイオロジーの『深睡眠スイッチ』
秋の夜、なぜ眠りが浅くなる?
息が浅いと、眠りも浅い
寝つけるのに、夜半にふと目が覚めてしまう。胸のあたりがカサつくようで呼吸が浅い——そんな「秋仕様の浅睡眠」は珍しくありません。昼の涼しさと夜の冷え込み、空気の乾き。体は季節に合わせて衣替えしますが、自律神経やホルモンもまた同じく繊細にチューニング中。少しのズレが、深睡眠の入口を狭くします。
秋は日照時間が短くなり、脳の「体内時計」は前倒しになりがち。就寝・起床の小さな遅れでも、眠りの深さが崩れます。いつもの習慣を数十分だけ秋仕立てに寄せると、驚くほど整います。
夏の余熱と秋の乾き、その“はざま”がポイント
夏に溜めた熱と汗で失われた潤いが回復途上のまま、秋の乾きが重なる時期。体は「冷やしたい」と「潤したい」を同時に望み、結果として呼吸も睡眠も浅くなりやすいのです。深く眠るには、この相反するニーズをうまく満たすこと。キーワードは「少し早く」「少し冷やし」「少し潤す」。
💡ワンポイント:就寝90分前の軽い入浴→放熱で深部体温が自然に下がり、深睡眠が入りやすくなります。
東洋医学の視点:肺と“収”の季節
「肺」は潤いとリズムを司る
東洋医学で秋は「金」に属し、主役は「肺」。肺は皮膚・鼻・喉をうるおし、呼吸のリズムを整えます。古典『黄帝内経・四気調神大論』は「秋三月、早臥早起、以収為務」と説きます。秋は“収める季節”。夜更かしは肺を乾かし、眠りの“収まり”を邪魔します。まずは寝る時間を少しだけ早め、吐く息を長くして肺をいたわる。これが秋の定番ケア。
肺は「魄(はく)」=身体感覚の安らぎとも縁深い臓。寝る前のスマホで感覚刺激を浴び続けると、魄が落ち着かず、寝入りは早くても睡眠は浅くなりがちです。
潤い=津液を満たし、肝血と“心腎相交”をつなぐ
浅い睡眠の背景には、乾きによる津液不足、緊張で乱れる気のめぐり、血の不足で夢が多い——などの要素が重なります。夜は陰を養う時間。白きくらげ、梨、胡麻、百合根など「白く、ほどよく甘い」食材は肺を潤し、心(しん)を静めます。さらに足首まわりを温めて腎を補うと、心と腎(じん)の交流が整い、睡眠が深まる方向へ。
経絡リズムと“早臥早起”の合理性
子の刻(23時〜)は肝・胆が働き、血をしまう時間帯。ここで布団にいると、からだは「収」のモードに入りやすい。寝る前に列缺(れっけつ)で喉胸のこわばりをほどき、神門(しんもん)・太衝(たいしょう)を軽く指圧して気血の流れを静めると、肺と肝がバトンを渡しやすくなります。
💡ツボの目安:列缺(れっけつ)は手首から親指側に辿って骨のくぼみ、神門(しんもん)は手首シワ小指側、太衝(たいしょう)は足の親指と人差し指の骨が交わる前の窪み。痛気持ちいい圧で各30秒。
現代科学の視点:クロノバイオロジー
メラトニンは“光の通訳”
メラトニンは暗くなると増える睡眠ホルモン。夕方の強い光、特に青色光は分泌を抑えます。日没が早まる秋は、日中の光を十分に浴び、夜は照度と青色光を控えることで、分泌の立ち上がり(DLMO)が前進。深睡眠の“波”が高くなります。
夕方の散歩15分は、体内時計を整える無料の“光療法”。逆に21時以降は画面の輝度を落とし、色温度を暖かくすると◎。
深部体温とスローフェーズ
深い睡眠は、寝入り直後の深部体温低下がスムーズなほど入りやすい。ぬるめ入浴→放熱、足首の保温→末梢血流アップで、体温の“落差”を作るのがコツ。さらに、アデノシン蓄積(起きている時間の積分)が深睡眠の圧を高めます。日中に軽く体を動かすほど、夜の波は深く大きく。
自律神経・筋膜・腸の連携
長い呼気は迷走神経を介して副交感神経を優位にし、入眠を後押し。筋膜のゆるやかなストレッチは機械受容器を介して自律神経の「緊張ノブ」を下げます。腸内細菌叢も日内リズムを持ち、食事時間が乱れるとメラトニン前駆体(トリプトファン→セロトニン)代謝が不安定に。夕食の時間帯を安定させるだけで、睡眠の質は上がります。
💡脳の“お掃除”は深睡眠で活性化(グリンパ系)。夜更かしは清掃車の出動を遅らせます。早めの便り(就寝)で、朝の頭はスッキリ。
今夜からの「深睡眠スイッチ」
光と温度のミニ・戦略
- 夕方は屋外の自然光を15〜30分、就寝2時間前からは室内を間接照明に。
- 入浴は就寝90分前、38〜40℃で10〜15分。出たら足首は温かく、首元は涼しく。
- 寝室は18〜20℃目安、湿度50〜60%。加湿は喉と鼻の潤い=秋の「肺」の味方。
- 夕食は就寝3時間前まで。トリプトファン源(豆・卵・白胡麻)+発酵食品を少し。
- 布団に入ったら「4-6-8呼吸」:4吸う→6止める→8吐くを5回。
“秋の一皿”アイデア:蒸し梨に蜂蜜少々と白きくらげ、仕上げに黒胡麻。肺を潤しつつ、ほんのり満足感で夜食の誘惑に勝てます。
呼吸・経絡のセルフケア
肩甲骨の間をゆるめる「壁ペタ伸び」→腕をバンザイした状態で手の平を壁につけ、猫のようにノビをしながら胸が伸びているのを感じます。鼻から吸って口から息を細く長く吐きながら行うと効果的です。
注意:不眠が長引く、いびき・呼吸停止が疑われる、痛み・抑うつを伴う場合は医療機関へ。セルフケアは治療の代替にはなりません。
食と腸内時計の整えどき
朝は光+たんぱく質、夜は消化にやさしい温かい汁物で「締め」。食事時間を毎日±30分に収めるだけで、腸と脳の時計は歩調をそろえます。カフェインは昼過ぎまで、アルコールは量より「なし」に軍配。深睡眠は“静かな肝臓”から。
チェックリストで最終調整
今日のチェック
- 夕方の屋外光を浴びた(15分以上)
- 就寝2時間前から照明を落とし、画面の色温度を暖色に
- 入浴は就寝90分前、ぬるめ・短めで放熱準備OK
- 寝室の温湿度は秋仕様(18〜20℃、50〜60%)
- 列缺・神門・太衝を各30秒、呼気長めの呼吸5セット
明日のために:起床時はカーテン全開+コップ1杯の水で内外の「潤いスイッチ」を同時ON。体内時計は“朝の勝者”に微笑みます。
うまくいかない日の微調整
寝つきが遅い日は、翌朝の「起きる時間」は固定しつつ、昼寝は15分以内・15時前に。寝不足の埋め合わせは“次の夜”に任せる方が、体内時計はブレません。
季節と眠るまとめ・ご案内
古代の知恵と現代科学は、秋に“早く、静かに、潤して”が合言葉
東洋医学は「秋は収める」「潤す」「早臥早起」を説き、クロノバイオロジーは「暗く、涼しく、規則的に」を勧めます。言葉は違えど、指さす先は同じ。浅眠は、季節に体をチューニングする合図。ほんの少し前倒し、ほんの少しの放熱と潤いで、深睡眠のスイッチは静かに入ります。
体質の“傾き”を知ると、調律は速い
同じ秋でも、乾きやすい人、冷えやすい人、考えすぎて目が冴える人——チューニングポイントは人それぞれ。東洋医学的なご自身の“体質傾向”の視点から、カラダの状態やセルフケアの方向性を知りたい場合は、こちらの公式LINEでのサービス『ととのうケアナビ』も試してみてくださいね。
📍参考文献
公的機関・ガイド
- 厚生労働省 e-ヘルスネット:睡眠と生活習慣、体内時計と健康(https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/)
- NIGMS/NIH. Circadian Rhythms Fact Sheet(https://www.nigms.nih.gov/education/fact-sheets/Pages/circadian-rhythms.aspx)
- NINDS/NIH. Brain Basics: Understanding Sleep(https://www.ninds.nih.gov/health-information/patient-caregiver-education/brain-basics-understanding-sleep)
学術レビュー・論文
- Chang A-M et al. Evening use of light-emitting eReaders negatively affects sleep. PNAS. 2015.
- Kräuchi K. The human sleep-wake cycle: thermoregulatory aspects. Sleep Med Rev. 2001.
- Xie L. et al. Sleep drives metabolite clearance from the adult brain. Science. 2013.
- Schleip R. Fascial plasticity – a new neurobiological explanation. J Bodyw Mov Ther. 2003.
- Thaiss CA. et al. Microbiota diurnal rhythmicity programs host transcriptome oscillations. Cell. 2016.
- Jerath R. et al. Physiology of long pranayamic breathing. Front Psychol. 2015.
古典
- 『黄帝内経・素問』四気調神大論:「秋三月、早臥早起、以収為務」—秋は早寝早起きし、収めることを務めよ(意訳)