秋の胃腸ケア最前線:ツボ刺激×食欲ホルモンの科学+体質チェックで“食べすぎ”をストップ

🕊 2025.11.11 🗂️ お腹の調子

 

秋、胃腸は衣替え中

「食べたい」が暴走するとき

夕方になると油揚げの香りや焼き芋の湯気に吸い寄せられる季節。涼しさにほっとすると、胃腸は急に働き者になり、つい「もう一口」を積み重ねがちです。けれど、胸焼けや重だるさ、朝のだるさが出てきたら、消化の炉がオーバーヒート気味かも。秋は日照時間の変化で体内時計が微調整期に入り、自律神経もゆさぶられます。つまり、食欲のアクセルとブレーキのバランスが崩れやすい時期なのです。

「なんとなく不調」は、胃腸が出す小さなメモ書き。メモを無視して大盛りで上書きし続けると、やがて読みづらい字になってしまいます。早めの“解読”が秋のコツ。

秋のからだにやさしいスタートライン

暴食を意志力だけで抑えるのは、向かい風に向かって全力疾走するようなもの。東洋医学のツボ刺激で「内なる追い風」をつくり、現代科学の知見で食欲ホルモンの波に乗る。そこに自分の体質傾向を重ねれば、食べすぎは“工夫で止まる”問題に変わります。

東洋医学の視点:脾胃と秋の“燥”

「脾胃」はからだの土台、胃腸は台所のかまど

中医学では、食べ物をエネルギー(気)と栄養(血)に変える部署が「脾胃」。ここが弱ると、だるさ・むくみ・甘い物欲が増えます。『黄帝内経』は「胃は受納、脾は運化」と語り、受け入れとかまどの火加減の両輪が大切だと説きました。火が弱ければ冷えと未消化、強すぎれば乾きと渇き。秋はとくに燃え方の微調整が鍵です。

豆知識💡 脾胃の“火”は、ガス火より「とろ火」が理想。温かい汁物や蒸し調理は、とろ火サポートの代表選手。

秋は「燥」の季節。肺・大腸ルートもいたわる

五行で秋は「金」。肺と大腸が主役で、乾燥(燥)がテーマ。乾きすぎると腸の滑りが悪くなり、便秘やガスでお腹が張り、結果として胃の動きも滞ります。潤いを補う白い食材(梨、百合根、大根)や、ごま・はちみつのまろみは、かまどの“とろみ係”。

ツボは、体内リモコン。胃の真上「中脘(ちゅうかん)」は温度設定、膝下の「足三里(あしさんり)」はスタミナモード、手首内側の「内関(ないかん)」は揺れやすい胃をなだめる“安定化装置”のイメージです。

今日の指先メンテ:中脘・足三里・内関

中脘(みぞおちとへその中間)を縦方向にやさしく円を描くように30〜60秒。足三里(膝蓋骨の外側下から指四本分下)を息を吐きながらゆっくり10回押す。内関(手首のしわから指三本分肘側・中央)を左右各30秒。食前・食後のどちらでもOK、痛みは「イタ気持ちいい」まで。

現代科学の視点:食欲ホルモンと自律神経

食欲ホルモンの三重奏:グレリン・レプチン・GLP-1

胃から分泌されるグレリンは「お腹すいたよ」の合図で食前に上昇。脂肪組織のレプチンは「もう十分」のサイン。小腸のL細胞から出るGLP-1やPYYは、食後に満腹感を後押しします。たんぱく質や食物繊維、発酵食品はGLP-1やPYYの反応を高めやすいことが報告され、噛む回数や食べるスピードも満腹シグナルに影響します。

自律神経は胃腸のメトロノーム。副交感神経(迷走神経)が優位だと消化はスムーズ、交感神経が過緊張だと胃は“待機モード”に。手首の内側やみぞおち付近の穏やかな刺激は、心拍変動を介してリラックス反応を引き出す可能性が示唆されています。

ツボ刺激×迷走神経:実は相性がいい

吐き気・胃のむかつきに対する内関(P6)刺激の有効性は、術後や乗り物酔いで臨床研究が積み重ねられてきました。足三里(ST36)や中脘(CV12)近傍の刺激は、胃運動や自律神経指標(心拍変動)に変化を与える報告もあります。強い刺激より、呼吸と同調した穏やかな押圧が安全で続けやすいポイントです。

豆知識💡 よく噛むほど、食後の満足度が上がる研究が多くあります。目安は「一口20〜30回」。ゆっくり食べる人は、同じ満足でも総摂取量が自然と少なめに。

腸内細菌は“第3のシグナルマン”

食物繊維が腸で発酵すると、短鎖脂肪酸(酢酸・プロピオン酸・酪酸)が作られ、腸の受容体を介してGLP-1・PYY分泌を後押しします。発酵食品や水溶性食物繊維(海藻、オート麦、果物)は、満腹シグナルの“音量”を上げる味方。秋の根菜スープは、科学的にも理にかなった一杯です。

体質チェックで食べすぎのスイッチを見極め

あなたはどのタイプ?(当てはまる項目が多いものを記録)

  • 気虚タイプ:疲れやすい、食後に眠い、声が小さい、冷たいものが苦手
  • 湿滞タイプ:むくみやすい、舌に歯形、油っぽい食事で胃もたれ
  • 肝うつタイプ:ストレスで過食/間食、ゲップや胸脇の張り、肩こり
  • 血瘀タイプ:刺すような痛み、目の下のクマ、手足が冷えて顔はのぼせ
  • 陽虚タイプ:下半身が冷える、薄味でも塩気を欲す、朝が苦手

ざっくり対策メモ:気虚→温かい主食と足三里、湿滞→小豆・はとむぎと天枢、肝うつ→香り野菜と内関、血瘀→少量でよく噛む+軽めの有酸素、陽虚→腹巻き+生姜入りスープ。完璧より“続く”が勝ち。

ツボと食材のミニ連携表

中脘×大根おろし(消化サポート)、足三里×鶏むね・里芋(エネルギー補給)、内関×柑橘の皮の香り(気の巡り)、天枢×発酵キャベツ(腸の動き)。冷えが強い日は温かいものを一つ足すだけでも、満腹の“質”が変わります。

今すぐできるセルフケア

今日からの5分ルーティン

  • 食前60秒:内関を左右各30秒押し、深呼吸4回。迷走神経に合図を送る準備運動。
  • 食事は汁物スタート:温かい味噌汁や根菜スープで胃を“とろ火モード”へ。
  • ひと口30回咀嚼チャレンジ:時計ではなくアゴがタイマー。満腹ホルモンの応援に。
  • 食後3分の中脘ゆらし:みぞおちを上下にやさしく円運動。胃の滞り予防に。
  • 21時以降は甘い物の“保留箱”へ:メモに書いて翌日の昼へ回す。意思より仕組み。

注意:妊娠中・重い消化器症状・治療中の方は、強い押圧や自己判断の食事制限を避け、医療者に相談を。ツボは「痛気持ちいい」強さまでが基本です。

まとめと次の一歩

古代の知恵×最新科学は、胃腸のベストパートナー

秋の食べすぎは、性格や根性の問題ではありません。脾胃の火加減(中医学)と、グレリン・レプチン・GLP-1のリズム(科学)をそろえ、迷走神経にやさしくスイッチを入れる。そこに自分の体質傾向を添えれば、胃腸は静かに整列をはじめます。今日の一手は、小さく軽く、でも毎日。

東洋医学的なご自身の“体質傾向”の視点から、カラダの状態やセルフケアの方向性を知りたい場合は、こちらの公式LINEでのサービス『ととのうケアナビ』も試してみてくださいね。

📍参考文献

  • 厚生労働省 e-ヘルスネット「肥満と健康」https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/
  • Cochrane Review: Lee A, et al. Stimulation of the wrist acupuncture point P6 for preventing postoperative nausea and vomiting. Cochrane Database Syst Rev. 2015.
  • WHO Regional Office for the Western Pacific. Acupuncture: Review and Analysis of Reports on Controlled Clinical Trials. 2002.
  • Klok MD, et al. The role of leptin and ghrelin in the regulation of food intake and body weight. Obesity Reviews. 2007.
  • Holst JJ. The physiology of glucagon-like peptide 1. Physiol Rev. 2007.
  • Chambers ES, et al. Effects of dietary short-chain fatty acids on gut hormones and appetite. Int J Obes. 2015.
  • Laborde S, et al. Slow-paced breathing and cardiac vagal activity. Psychophysiology. 2017.
  • 山下仁 監修『よくわかる経絡・ツボの教科書』主婦の友社, 2019.
  • 『黄帝内経(素問)』より「胃者受水穀之海、脾主運化」を意訳。
小川亮太

監修者:小川 亮太(おがわ りょうた)

鍼灸師・医薬品登録販売者。東洋医学とAIを融合したウェルネスサービス『ととのうケアナビ』を監修。
「自分の体を自分で整える」ための東洋セルフケアを発信中。

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小川亮太

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