潤い養生2.0:東洋医学×科学で守る肌・喉のバリア
秋の乾きを感じたら
朝の鏡にうつる「粉雪」現象
エアコンの風が頬をかすめるたび、肌は粉雪のように舞い、喉はまるで紙風船。コーヒーを一口、メールを三通。気づけばため息が増えて、呼吸は浅く、声はカサつく。そんな日は、からだの“潤い貯金”が目減りしているサインです。
乾きは気分も乾かす
バリアが薄くなると、刺激に敏感になり、集中力も散りやすい。肌・喉の乾きは、単なる“水不足”ではなく、自律神経や免疫、内分泌の微妙なゆらぎの表情でもあります。だからこそ、内外からの潤い養生で、静かに底上げしたいところ。
潤いは「量」より「留め方」。コップの水を増やすだけでなく、縁からこぼさない“縁作り”=バリア整備がカギです。
東洋医学の視点:潤いは「津液」と肺が要
肺は皮毛を主る。喉もその前庭
中医学では、体内のうるおいを「津液(しんえき)」と呼びます。『黄帝内経』には「肺は皮毛を主る」とあり、肺は皮膚・体毛のバリアと深い関係。乾燥はまず肺を傷つけ、咳や喉のいがらっぽさ、肌のカサつきとして現れます。つまり、喉は肺の玄関マット。砂ぼこり(乾き)を払い落とす機能をケアするのが先決です。
気・血・水のバランスと“潤いの運搬”
潤いは「作る(脾)」→「運ぶ(肺)」→「貯める(腎)」の連携プレー。食べたものから津液を生み、呼吸で全身へ配り、腎の陰で底支え。どこかが渋滞すると、乾きは点ではなく面で広がります。ストレスで気が滞れば、潤いの循環も停滞しがち。
💡古典一口メモ:乾燥の季は辛味を控え、甘・酸で津液を守る(意訳/『素問』)。梨・白ごま・はちみつは“潤い三兄弟”。
現代科学の視点:角質・粘膜・自律神経の三位一体
肌:角質バリアと経表皮水分蒸散(TEWL)
肌の最前線は角質層の“レンガとモルタル”。セラミドや脂質(モルタル)が不足すると、TEWLが上がり、外からの刺激も中からの水分も行き来しやすくなります。保湿は「水分を与える」だけでなく「蒸散を抑える」ことが肝。ワセリンなどの閉塞剤を薄く重ねると、TEWLの低下が期待できます。
喉:粘液線毛輸送と湿度40〜60%
鼻・咽頭の粘膜は、粘液と線毛のベルトコンベアでウイルス・粉塵を外へ搬出。乾燥は粘液を固め、線毛運動を鈍らせます。室内湿度を40〜60%に保つと、粘膜バリアとウイルス粒子の挙動が安定し、負担が軽くなります。鼻呼吸は天然の加湿器。口呼吸は“直送便”で喉を乾かします。
副交感神経が優位だと、唾液・気道分泌が増え、喉はしっとり。ストレスで交感神経が張ると、唾液や分泌IgAが下がりバリアが手薄に。ゆるむ時間は潤いの投資です。
神経・免疫:唾液IgAと迷走神経
心理ストレスは唾液中の分泌型IgAを低下させる報告が多く、上気道の守備力に影響します。一方、ゆったりした呼吸やハミングは迷走神経を刺激し、分泌や抗炎症反射を後押し。科学の言葉で言い換えるなら、「整える=潤いの作業効率を上げる」です。
注意:喘息・COPD、重い皮膚炎がある方は自己流ケアを始める前に医療者へ相談を。保湿剤・食品はパッチテストや少量から。
豆知識:潤いの“裏方”たち
ヒアルロン酸は気道の潤滑油
気道粘液にはヒアルロン酸が含まれ、粘弾性を調整します。外からの過剰な刺激より、体内での合成を助ける生活(睡眠・栄養)が土台です。
筋膜のすべりと水分
筋膜はヒアルロン酸を含み、十分な水分と緩やかな動きで“すべり”が回復。首・胸郭のこわばりをほどくと、呼吸のリズムが整い、喉の乾きを感じにくくなることがあります。
💡加湿の黄金比:湿度40〜60%、温度20〜22℃。窓際の結露チェックは朝の“見える化”。湿度計はデスクに一台どうぞ。
今すぐできるセルフケア
内外からの二刀流で
「与える→抱え込む→巡らせる」の順で、小さな習慣を積み上げましょう。スキンケアも呼吸も、最後は“逃がさない工夫”が勝ち筋です。
- 空気の処方箋:湿度40〜60%をキープ。就寝1時間前に5分のスチーム吸入(マグカップの湯気を鼻から深呼吸)。
- 三層保湿ルール:化粧水で与え、セラミド系で満たし、ワセリンを米粒分で薄く“フタ”。手は手洗い後15秒以内に同様に。
- 鼻主導の呼吸:1-3-2呼吸(吸1・止3・吐2×3分)。ハミングを足すと副鼻腔NOが上がり、加湿・抗菌に一役。
- 潤い食材を常備:梨・大根・はちみつ・白ごま・豆乳。スープに生姜は“温め潤す”黄金ペア(辛味は適量)。
- 首胸の“水路”を開ける:鎖骨の上下を円を描くようにほぐし、肩甲骨の間を伸ばす。1セット2分、PC休憩ごとに。
チェックリスト
今日の潤いスコアをセルフ監査
- 室内湿度は40〜60%に入っている
- 鼻呼吸がメインで、口の乾きが少ない
- 手洗い後60秒以内に手指を保湿した
- 水分だけでなく、油(セラミド・オイル)でフタをした
- 3分の“副交感スイッチ”時間を確保した
まとめと次の一歩
古代の知恵と現代の作法は、潤いで握手する
中医学の「肺は皮毛を主る」「津液を守る」という視点は、角質バリア・粘液線毛・自律神経の科学ときれいに重なります。季節の乾きに気づいたら、空気・肌・呼吸の三点セットを淡々と。小さな習慣が、大きな“しっとり感”を育てます。
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📍参考文献
- WHO. Roadmap to improve and ensure good indoor ventilation in the context of COVID-19. 2021.
- 日本皮膚科学会 アトピー性皮膚炎診療ガイドライン(保湿と皮膚バリアの概念)
- Elias PM, Steinhoff M. “Clinical implications of a defective skin barrier.” J Invest Dermatol. 2008.
- Rawlins EL et al. “Mucociliary clearance and airway surface liquid.” Physiology. 2007.
- Bosch JA et al. “Academic examinations and immunity: a meta-analytic review.” Psychoneuroendocrinology. 2002(唾液IgAとストレス)
- Tracey KJ. “The inflammatory reflex.” Nature. 2002(迷走神経と抗炎症反射)
- Stecco C et al. “Fascial system and hyaluronan.” J Bodyw Mov Ther. 2018.
- 『黄帝内経・素問』乾燥と肺、津液の養生に関する記述(意訳)